動物界 animalia
動物界は核膜を有する真核細胞から構成される多細胞の生物群で、現在約149万種が記載され、深海から高山まで地球上のあらゆる環境に生息する。それらのボディプラン(体制:体の形態の規則性)と分子系統解析により30余門に分けられる。歴史的には移動能力と感覚を持たない植物の対比として生物は動物と植物の2界に分けられていた。
動物を表す分類は現在までに多くの高次の体系が提案されているものの、一般的には19世紀ヘッケルが単細胞である原生動物に対するものとして提唱した多細胞の後生動物を示し、1969年以来のホイタッカーの5界説の1界として扱われることが多い。
動物界に含まれる掲載中の分類群
動物界に含まれる種
現在50種掲載
概要
動物界の生物はその形態・機能・行動において以下の特徴を有する。
細胞構造
動物細胞は個々の細胞を分離する細胞膜に包まれ、DNAのほとんどが存在する核、エネルギー生成を担当するミトコンドリア、核分裂に関与する中心小体など、特定の機能を持った複数の小器官で構成される。動物細胞は植物細胞と異なり細胞壁、葉緑体、液胞を持たない。
多細胞体制と諸器官
多細胞体制は起源的には単細胞生物の集合である細胞群体に由来すると考えられるが、動物はそれぞれ特殊化、機能分化した細胞群から成る独立した機能と形態を持つ器官を形成し、個々の器官の密接な連携によって個体を維持している。発生過程では単一の受精卵だった細胞が分裂を繰り返し、祖先形質を辿りながら独立した器官を形作る。
それらの器官は神経系、感覚系、呼吸系、筋肉系、骨格系、消化系、循環系、排出系、生殖系、内分泌系、外皮系等に分けられ、特に神経系、感覚系、筋肉系を動物性器官と呼ぶことがある。
呼吸
生物が代謝ー活動に必要なエネルギーを得る過程で、主に酸素を媒介し外界から取り入れた科学物質を酸化させ、生体に利用できる形に還元する事を内呼吸(細胞呼吸)と呼ぶが、動物においては呼吸器を利用し、環境中から自律的に酸素を取り込み二酸化炭素を排出する外呼吸を各動物のボディプランに応じて行っている。
感覚器・神経系・運動
動物は生体内外の環境変化・刺激を知覚するための感覚器を備え、神経系・運動器の発達度に応じて個体は能動的でより多様な運動を形成するが、ヒトなど脳神経の高度に発達した生物は大脳が感覚の選別に関与している。
睡眠
睡眠はそれ自体と覚醒に関与する神経細胞の相互作用で発現し、主に環境の明暗に起因する生体リズムにより周期性を持ち、体の成長発達、疲労回復、恒常性維持、免疫機能に関わり、睡眠時は概ね意識を喪失した状態になる。瞼の可動する動物では閉眼し静止状態が維持されるが、水中生活を行う哺乳類や渡り鳥の中には片側の目を閉じ、脳の半分で睡眠に入り、運動を続ける「半球睡眠」を行う種もおり、睡眠の形態、姿勢、睡眠周期も動物によって様々である。
高等な神経系を持つ動物は脳波の計測により睡眠状態の特定が可能だが、そうではない動物や無脊椎動物においては、刺激への反応が乏しい不動状態の継続やその周期、環境要因等、行動様式の観察から定義している。
近年の研究ではショウジョウバエなどの昆虫にも行動学的な睡眠が観察され、睡眠に関与する物質・遺伝子は哺乳類との共通点が指摘されている他、刺胞動物のヒドラなど脳を持たない動物においても睡眠行動が確認されるなど、動物の睡眠のより古い時代での起源が示唆される。
摂食と消化
動物は従属栄養型の生物で、生体分子を合成するためのエネルギー源として体外の物質の摂食、他の生物の捕食を行う。捕食した食物は栄養分として吸収可能な形にするため、咀嚼など物理的な段階、消化液による化学的な段階を経て分解された後、消化管内で吸収され、不消化物は体外に排出される。
個体の移動
単細胞生物の移動は鞭毛や繊毛によって行われるが、多細胞の動物は神経系、感覚系、筋肉系、骨格系等の共同で水中、地上、空中で個体を移動させる機能が高度に発達している。
生殖に関する機構
動物には無性生殖、有性生殖、一世代でそれらが条件によってそれが切り替わるもの、また成長に伴って雌雄の性転換を行う場合などがあり、その機構は一様ではない。しかし動物は個体の境界がわかりやすく、有性生殖を行う動物は体の形態や機能の性差が特徴的なものが多い。それらの動物における体内受精を行う種に特有の交尾器の発達、複雑な行動形態と過程を持つ配偶者選択や生殖隔離等、一連のシステムは動物に特有の様相を持つ。
動物界の系統
分類群と系統 | 代表的な動物 | |||||||||||||
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後生動物 | 有櫛動物門 | クシクラゲ | ||||||||||||
海綿動物門 | 海綿類、カイロウドウケツ | |||||||||||||
平板動物門 | センモウヒラムシ | |||||||||||||
刺胞動物門 | クラゲ類、ヒドロ虫類 | |||||||||||||
左右相称動物 | 珍無腸動物 | 珍渦虫動物門 | 珍渦虫 | |||||||||||
無腸類 | ロンヴォルトゥリルバ、ステレリア等 | |||||||||||||
後口動物 | 水腔動物 | 棘皮動物門 | ウニ、ヒトデ、ナマコ等 | |||||||||||
半索動物門 | ギボシムシ、フサカツギ等 | |||||||||||||
脊索動物 | 脊索動物門 | ナメクジウオ、ホヤ、脊椎動物 | ||||||||||||
前口動物 | 毛顎動物門 | ヤムシ | ||||||||||||
らせん動物 | 有輪動物門 | パンドラムシ | ||||||||||||
菱形動物門 | サリネラ | |||||||||||||
直泳動物門 | キリオキンクタ等 | |||||||||||||
担顎動物 | 顎口動物門 | ハプログナチア、グナトストムラ等 | ||||||||||||
微顎動物門 | リムノグナシア | |||||||||||||
輪形動物門 | ワムシ類 | |||||||||||||
鉤頭動物門 | コウトウチュウ | |||||||||||||
腹毛動物門 | シャミセンガイ等 | |||||||||||||
扁形動物門 | ウズムシ(プラナリア) | |||||||||||||
冠輪動物 | 軟体動物門 | イカ、タコ、貝類、ナメクジ類 | ||||||||||||
環形動物門 | ゴカイ、イソメ、ミミズ、ヒル等 | |||||||||||||
紐形動物門 | ヒモムシ | |||||||||||||
触手冠動物 | 腕足動物門 | イタチムシ、オビムシ等 | ||||||||||||
箒虫動物門 | ホウキムシ | |||||||||||||
苔虫動物門 | コケムシ | |||||||||||||
内肛動物門 | ロクソソマ、スズコケムシ等 | |||||||||||||
脱皮動物 | 有棘動物 | 鰓曳動物門 | エラヒキムシ | |||||||||||
胴甲動物門 | コウラムシ類 | |||||||||||||
動吻動物門 | エキノデレス等 | |||||||||||||
線形動物 | 線形動物門 | 蟯虫、センチュウ、フィラリア等 | ||||||||||||
類線形動物門 | ハリガネムシ | |||||||||||||
汎節足動物 | 緩歩動物門 | クマムシ | ||||||||||||
有爪動物門 | カギムシ | |||||||||||||
節足動物門 | 昆虫、クモ類、甲殻類、ムカデ類 |
参考文献
- 藤田敏彦 著 『新・生命科学シリーズ 動物の系統分類と進化』 裳華房 2010年4月25日
- 白山義久 編 『無脊椎動物の多様性と系統』 2011年3月25日 裳華房 第7刷2版
- 巌佐庸、倉谷滋、斎藤成也、塚谷雄一 編 『岩波生物学辞典 第5班』 岩波書店 2013年
- ロス・パイパー 著 『知られざる地球動物大図鑑』 東京書籍 2016年5月26日
- 大島靖美 著 『動物はいつから眠るようになったのか?ー線虫、ハエからヒトに至る睡眠の進化』 技術評論社 2018年3月1日 電子版初版第1刷
- D・サダヴァ 他 『アメリカ版 新・大学生物学の教科書 第1巻 細胞生物学』 講談社 2021年3月1日
- 佐藤 文、 金谷 啓之、 伊藤 太一 動物はいつから眠るようになったのか? – 脳のないヒドラから睡眠の起源を探る academist Journal
- Catalogue of Life