生物図鑑

ニホンジカ

  • ニホンジカ
    撮影:奈良県奈良市 2021年7月19日 奈良公園
  • ニホンジカ
    撮影:奈良県奈良市 2021年7月19日 奈良公園
  • ニホンジカ
    撮影:奈良県奈良市 2013年4月19日 奈良公園
  • ニホンジカ
    撮影:奈良県奈良市 2013年4月19日 奈良公園
  • ニホンジカ
    撮影:奈良県吉野郡 2013年9月13日 大台ヶ原
  • ニホンジカ
    撮影:奈良県吉野郡 2013年9月13日 大台ヶ原
  • ニホンジカ1
    奈良県奈良市 2021年7月19日 奈良公園
  • ニホンジカ2
    奈良県奈良市 2021年7月19日 奈良公園
  • ニホンジカ3
    奈良県奈良市 2013年4月19日 奈良公園
  • ニホンジカ4
    奈良県奈良市 2013年4月19日 奈良公園
  • ニホンジカ5
    奈良県吉野郡 2013年9月13日 大台ヶ原
  • ニホンジカ6
    奈良県吉野郡 2013年9月13日 大台ヶ原
基礎情報
学名Cervus nippon
英名 / 漢字Sika deer / 日本鹿
大きさ頭胴長90〜190cm、尾長8~〜13cm
分布・時期国内では北海道から慶良間諸島までで一年中
生息環境草地のある森林
食物木の葉、草、植物の種子など

特徴・形態

頭胴長:雄は90〜190cm、雌は90〜150cm、尾長8〜13cm、体重20〜140kg。夏毛は雌雄ともに茶褐色の下地に白斑がまばらに点在する鹿の子模様で、冬毛は雄は暗褐色、雌は灰褐色になる。
雄だけにある頭部の角は毎年生え替わり、3〜4本、時に5本に枝分かれする。枝状の角は夏に落ち、ビロード状の起毛に覆われた短い袋角(ふくろづの)が現れ、秋には長い枝角が再生する。

分布・観察時期・生息環境

分布は極東アジアからベトナムまでの範囲。日本では7亜種に分かれ、北海道のエゾジカ C.v.yesoensis、本州のホンシュウジカ C.v.centralis、中国地方・四国・九州のキュウシュウジカ C.v.nippon、対馬のツシマジカ C.v.pulchellus、馬毛島のマゲジカ C.v.mageshimae、屋久島のヤクシカ C.v.yakushiamae、慶良間諸島のケラマジカ C.v.keramae がそれぞれ分布する。
ケラマジカは天然記念物に指定されている。

系統と由来

近年の分子系統学的解析により、中国地方を境界とする北日本型、南日本型が存在することが明らかになり、約30万年前に大陸で分岐した後、かつて陸続きであった15万年前までに朝鮮半島との間の陸橋経由で南日本型が、1万8千年前までの最終氷期の間に北日本型がサハリン経由で日本に侵入したと考えられている。

ニホンジカの生息環境は周辺に草地の多い森林で、農耕地にも現れる。近年では積雪の多い地方にも侵入している。

生態

植物食性で朝夕に活発に行動し、木の葉や樹皮、草本、種子などを幅広く採食。雌は群れで生活し、雄は通常単独で行動するが、9月下旬からの繁殖期には一部が縄張りでハーレムを形成する。妊娠期間は約220日で、翌年の5月下旬〜7月上旬に1頭出産する。

人との関わり

日本列島では約2万年前の石器や落とし穴を使った狩猟の痕跡が見られるなど、古来人類の蛋白源として消費されてきた。神道や仏教伝来以後は食肉が忌避されることもあり、表立って成文化された狩猟に関する資料は乏しいが、中近世の一部の文献にその様子が見られる事や、1980年代以降の各地の遺跡からはシカの骨や加工品が出土しており、交易の中で流通していたことが伺える。

近年の個体数推移と産業への影響

環境省の調べによると、本州以南のニホンジカの推定個体数は1989年の約26万頭から2014年の約260万頭をピークとして、2019年までの約142万頭へと推移している。農林水産省発表の1999年〜2021年までの農作物被害状況は1999年に約48億円(23%)、2011年に最大の約82億円(36%)、2021年に約60億円(39%)と推移していおり、日本の野生鳥獣が与える農作物への被害額は、全体の中でニホンジカが最も大きな割合を占めている。

環境と動物の行動の変化

北海道大学の理学博士揚妻直樹の2010年の論考では、ニホンジカの個体数の増大に人間の土地利用の変遷が関係している事が指摘されている。明治以前までは材木、薪炭利用のための伐採が日常的で、人間の集落周辺は疎林や痩せた松林等、野生動物に取って資源の乏しい環境だったため、人が動物を目にする機会が少なかった。
戦後以降の産業構造の変革による薪炭林の放棄、野生獣に取って資源量の少ないスギ植林地の増加により、却って農村地の方が動物に取って資源が豊かで好適な環境となるという逆転現象が起こり、農作物被害や人里での動物の遭遇率も増えたのである。これらは単純な個体数の増加以上に、環境の変化とそれに伴う動物の行動変化がより大きな意味を持っていることを示唆している。

参考文献

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