イノシシ
基礎情報 | |
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学名 | Sus scrofa |
英名 / 漢字 | Wild boar / 猪 |
大きさ | 頭胴長70〜160cm、尾長14〜23cm |
分布・時期 | 国内では北海道を除く各地で見られるが、積雪の多い地方では少ない |
生息環境 | 山地から里山の森林で、下草の豊富な雑木林や竹林、農耕地など |
食物 | 植物食に偏った雑食性で、植物の根、地下茎、地上に落ちた堅果やドングリ、ミミズ、サワガニ、昆虫、カエルなどの動物質も摂る |
特徴・形態
頭胴長70〜160cm、肩高60〜80cm、尾長14〜23cm、体重30〜150kg。嗅覚が鋭く、円盤状に発達した鼻で土中の餌を掘り起こす。冬季は剛毛に覆われるが、梅雨から晩夏にかけて夏毛に生え変わる。足の4本の蹄のうち後ろ側の副蹄は地面に近い位置にあるため、ぬかるみや雪に足跡が残る場合はその主がイノシシであることを推測しやすい。
国内では2亜種でニホンイノシシ S.s.leucomystaxとリュウキュウイノシシ S.s.riukiuanusに分かれる。リュウキュウイノシシはより小柄で頭胴長80〜120cm、体重50kg程度で耳は小さめ。
メスに比べオスは大柄で、犬歯が発達して目立つ。生後4〜6ヶ月くらいまでの幼体は背中の縞模様が目立ち、瓜坊(うりぼう)と呼ばれている。
分布・生息環境
北アフリカ、ユーラシア大陸のほぼ全域と近隣島嶼に広く分布し、日本では亜種ニホンイノシシが北海道を除く本州、四国、九州に分布し、奄美大島、徳之島、西表島までの南西諸島には亜種リュウキュウイノシシが分布する。
偶蹄類としては脚が短く雪の中では活動が制限されるため、冬季に30cmを超える積雪の深い地域では見られなかったが、近年ニホンイノシシは東北〜北陸にも現れる。
生息環境は山地から里山の森林で、下草の豊富な雑木林や竹林、農耕地など。
日本列島のイノシシの系統と由来
日本列島におけるイノシシの痕跡は人類よりも古く、朝鮮半島と九州の間に陸橋の存在した20〜37万年前、17〜31万年前に渡来したグループと、1〜2万年前のグループが北東アジアの系統と近縁であることがわかっている。陸橋が存在しなかった1〜2万年前は最終氷期にあたり、海面の低下により大陸と繋がったことで渡来できたと推測される。
一方リュウキュウイノシシは東南アジアのイノシシと近縁で、琉球列島が大陸と地続きだった時代に関連すると考えられ、それぞれの遺伝的由来は異なっている。
生態
植物食に偏った雑食性で、植物の根、地下茎、地上に落ちた堅果やドングリ、ミミズ、サワガニ、昆虫、カエルなどの動物質も摂る。
メスは春から初夏に1度に3〜8頭の子を産み、その単位で行動するが、オスは単独行動。
イノシシのフィールドサイン
鼻で土中を掘り返して餌を探した痕跡は派手に残るため、イノシシの存在を示す手がかりとなる。同じような形で掘り返された土に水たまりが見られたり、周囲の樹木や岩に泥が付着している場合は、イノシシが体に付着した寄生虫を取り除くための「泥打ち」を示すもの。
また、イノシシは巣を持つ動物で、窪地にササやススキなどの枯れ草を敷き詰めて作る。基本的に夜行性のため昼間は巣に篭って眠るが、日中に姿を見せることも多い。
人との関わり
食肉として狩猟対象となり、日本では約2万年前から石器や落とし穴などでイノシシを捕えていた痕跡がある。縄文時代の遺跡からは人骨と同じ場所からイヌの骨が出土されることがあるが、後の弥生時代では香川県出土の銅鐸に複数のイヌがイノシシを取り囲み、人間が弓矢で仕留めようとする様子が描かれており、古い時代からの組織的な狩猟方法の伝承が伺える。
生息域の拡大と獣害
環境省の調べでは1978年から2018年までの40年間でイノシシの生息域は約1.9倍に拡大し、推定個体数は1989年の25万頭から2010年の114万頭に増加、2017年にかけて88万頭に推移している。
1999年からの農林水産省の記録する農作物被害は、最も大きかった2010年は67億円に上り、野生鳥獣全体の被害額239億円中約3割弱をイノシシが占め、2020年では約46億円に推移。これに伴う被害防止等を目的とした捕獲・狩猟による捕獲頭数は2000年から2020年の間に15万頭から53万頭に増加した。
宇都宮大学の農学博士小寺祐二によると、イノシシの個体数増加の背景には1970年代以降の減反政策で増えた水田放棄地、エネルギー源の転換で放棄された薪炭林などイノシシの生育に好適な環境が形成されてきた事などが指摘される。
六甲山系のイノシシと餌付け行為
兵庫県南部に位置する六甲山では1965年以来人によるイノシシへの餌付け行為が確認され、生息域を拡大したイノシシが人家周辺に現れるようになっていた。80年代になると兵庫県芦屋市高座川上流で当時「芦屋イノシシ村」と呼ばれた場所で餌付け行為が繰り返され、近づいても逃げないほど人に慣れた個体群が集まるようになったためメディアにも大きく報じられることがあった。
栄養価の高い餌を維持できた周辺のイノシシは個体数を急速に増加させ、同じくして交通事故や人身被害の報告件数も増加することとなり、その後六甲山系を中心とする兵庫県の人身被害件数は全国的に高い割合を記録するようになった。
こうした流れを受けて、2002年5月には兵庫県神戸市でイノシシへの餌付けを禁止する全国初の条例として「神戸市いのししの出没及びいのししからの危害の防止に関する条例」が施行された。その後の神戸市の人身被害件数は2010年に70件超、2014年に60件超と、2017年の全国の合計値が76件であったことと比較しても非常に高い記録が続いたが、2018年以降では10件未満となり減少傾向にある。
獣害対策とジビエ振興
ジビエとはフランス語で食用で狩猟対象となる鳥獣の意味。
2014年の鳥獣保護管理法改正によるイノシシ捕獲数増加を経て、農林水産省ではジビエを振興し、捕獲、加工から流通までの経路を整備している。これにより全国のジビエ処理加工施設は2016年から2021年にかけて563箇所から734箇所になり、国産ジビエ利用量は1,283トンから2,127トンに増加した。
参考文献
- 久保敬親 『ヤマケイポケットガイド24 日本野生動物』 山と渓谷社 2001年
- 『兵庫の生きものたち 様々な環境を生き抜く命』 神戸新聞総合出版センター 2004年
- 池谷和信 編 『日本列島の野生生物と人』 世界思想社 2010年
- 小寺祐二 『イノシシを獲る ワナの掛け方から肉の販売まで』 農文協 2011年
- 小宮輝之 『くらべてわかる哺乳類』 山と渓谷社 2016年
- 久保敬親 写真 小宮輝之 解説『日本哺乳類図譜』 山と渓谷社 2022年
- 佐藤宏之 日本列島旧石器時代の陥し穴猟 2002年 国立民族学博物館
- 辻知香 横山真弓 六甲山イノシシ問題の現状と課題 2014年 兵庫県森林動物研究センター
- 鳥獣被害対策事業関係(平成20~27年度) 農林水産省
- 全国のニホンジカ及びイノシシの個体数推定及び生息分布調査の結果について 環境省
- ジビエ利用の推進について 農林水産省
- 神戸のイノシシ被害激減 20年度は2件のみ、ピーク時の5%に 神戸新聞NEXT 2021年
- 第3期イノシシ管理計画及び令和4年度事業実施計画 兵庫県 2022年
- 捕獲数及び被害等の状況 || 野生鳥獣の保護及び管理 環境省 2022年