【新型コロナ闘病記─隔離病室の10日間】2024年出版の関係書籍

皆さんこんにちは。本サイト主宰のモリサワでございます。
本サイトではライセンスなしで使用可能なフリー素材としての野生生物の写真を扱っておりますが、今回は2024年に本サイトの画像を一部使用いただき、出版された書籍を紹介させていただきます。
今回は金田法子氏の著書の一つ、「新型コロナ闘病記ー隔離病室の10日間」のご紹介になります。
金田氏はアイルランドの政府及び金融機関で15年間お勤めになられ、岡山大学で博士号を取得された後、アイルランドの小説家ジェイムズ・ジョイスの研究に独自に取り組まれておられる方です。
「新型コロナ闘病記ー隔離病室の10日間」では、本サイトから6枚の写真を文中の挿絵として使用いただきました。
本書は標題の通り筆者が2024年7月に経験された新型コロナウイルスへの感染、その闘病期間を思い起こされて書かれたエッセイになります。

その経験は、誰もが同じだったのか
新型コロナウイルスというと、あなたはどんなことを思い浮かべられるでしょうか?
2019年末からその名が報道されるようになり、瞬く間に全世界を巻き込んだニュースが数年間続くことになりました。その捉え方は人によっても異なりますし、世界の地域によっても異なる、千差万別と呼ぶべきものだったと私は記憶しておりますが、多くの人の心身に影響を与えたことは間違いはないでしょう。
感染することで危機的な状況に陥られた方、命を落とされた方、軽症で済んだ方、ほとんど症状のなかった方、一度も感染することのなかった方等々、様々です。しかしどの状況下でも、世界的に、大勢の人が等しい行動を取ることを求められ、著しく自由を奪われる過程があったことは共通しています。さて、これは社会現象としては類例のないことと言えるでしょうか。それとも、ありふれた現象でしょうか。そして、一人一人の前に訪れた現実はどのようなものだったでしょう。


私はといえば、2021年の毒性が高いと言われていた時期に感染し、高熱が2日間あったものの、仕事はリモートワークで済む内容だったため、病欠は2日のみで、自分自身への身体的影響は大きいものではありませんでした。しかし、過去に経験した熱の類とは違い、肺の不調が実感としてひと月くらい続いたということは非常に特殊であったと思います。
文章が導くもの
本書では筆者の病床での経験が非常に透明感のある文体で綴られています。
筆者の場合は感染の判明から10日間の入院。しかしそれまで大きなご病気をされたことはなかったそうなので、本文にある通りまさに「青天の霹靂」だったのでしょう。
それにしても、身動きが取れないほど体調を崩して横になっている時、人の意識・思考力というのはどのようなものでしょうか。それこそ朦朧として、その時にあったことなどあまり思い出せない、ということがほとんどかもしれません。
しかし、本書では面白いことに(こう表現して良いか悩むところですが)病床に伏せっておられるとは思えないほど筆者の意識が冴えわたっていたのでは、と感じられてしまいます。
それは、瑞々しくも落ち着いた文体を通して、何やら自分自身も実際にその場にいるかのような、その時々の細かな心の機微や目の動きを生き生きと感じさせてもらえるものです。
敢えて表現すると、筆者の視点をお借りして、その場の出来事がより近くに感じられ、自分が普段気にしていないものもより細かくはっきり捉えられるようなクリアな目線になる、というところです。

近頃私はエッセイを読むこともほとんどなく、仕事に関連するものや、それに近い内容の、問題解決の方法を得るために文章を読むことばかりになっていますが、本書を読むことで、自分とは違う視点や感じ方を借りる楽しさを思い出させてもらえるようでした。それは他者の人生の追体験と言えるものでしょうか。
こうした時に「読む」と言うことで行っているのは、自分というフィルターをどこまで薄くしてその体験を想起するか、ということかも知れません。
ですので、さきほど表現した透明感のある文体というのは、文が導く自己のフィルターの解除と筆者の世界と思考の追体験のより自然な導入が期待されるもの、と言うことになるでしょう。
本書の前半の章では、入院中に筆者が見聞きした体験がより生々しく感じられ、後半の章では活発に身動きが取れない間の、動植物の観察やテレビ番組の鑑賞の中での、ご自身のふとした思いが豊かに語られています。
私は読む中で得られる感覚を通して、非言語的なものも含む人間が生きる楽しさを思い出させてくれる素晴らしいものだと感じました。人は例え病床で寝たきりだったとしても、ほんの少しの刺激からでも無限の想像力を発揮して、いろいろなことを味わい、その面白さを人に伝えることがことができるのですね。
本書は棚に仕舞い込むのではなく、自分の手の届くところに置いて時々ゆっくり眺めさせてもらう。そんな一冊ではないでしょうか

自分に還るために
さて、2025年現在では世間からコロナウイルス自体への関心は薄くなっているようですが、この5年余り色々なことが原因でまだ若い方も年々と体調を崩しがちになっており、流行病に脅かされることが多くなっています。これには非常に複雑で深刻な原因が絡み合っているように思われます。
私自身もそうなのですが、人はついつい目前のこと、目下の予定にかかりきりになり、自らを疎かにしてしまいがちです。
こういう時だからこそ、健康面も含めて自身と向き合う時間が必要ですし、そのためには敢えて動くことも考えることもほどほどにして、何もせずただ横たわってみる、というのも大切なことだと思います。
例え、たった数分間、数秒間のことであったとしても。
本書はそうした貴重な気づきの機会を与えてくれるものだと思います。
最後になりますが、この記事に掲載している6枚の野鳥の写真は本書で使用いただいたものになります。機会があれば皆様も是非ご活用ください。
