動物図鑑

日本の野生動物

多様な動物を育む環境

日本列島は南北3000kmに及ぶ弧状列島であり、亜寒帯から亜熱帯までの広い気候帯を含んでいる。北緯45度から20度までの比較的高緯度に位置しながらも、世界の同緯度帯に比べて温暖で多雨なのは赤道付近からの暖流、黒潮の影響があり、夏の季節風は太平洋から暖かく湿った空気を運んで太平洋側に雨を降らせ、冬は大陸からの季節風が日本海側に降雪をもたらすためである。
 一般的に高温多湿な地域ほど生物の種数が増える傾向にあるが、前述の通り幅広い気候帯を含む上、本州には3000m級の山岳が連なり、低地から高山までそれぞれの環境に適応した生物に生息地を提供しており、複数の点で日本の生物相を多様にしている。加えて国土の60%以上が森林で覆われ、植生も多様であるため、こうした環境は多様な動物の棲み家としても当然好適である。実際に哺乳類では狭い日本列島でも110種が分布しており、中国の414種と比べると4分の1程度であるが、中国の面積が日本の25倍もあること考慮すると、日本列島の環境の多様さを示しているといえる。

種数の増加と種固有化の条件

新生代第四紀以降の氷期で日本列島の海岸線は上昇と後退を繰り返し、大陸と陸続きになることが何度もあった。気温の低下により海水が氷河となって高地に留まり、海底が露出し、海峡が陸橋となるのである。この時期に大陸から渡来する種が日本に定着するわけであるが、種の供給源は地域により違いがある。
 日本列島は生物地理学的には二つの地域に跨がっており、北海道から吐噶喇列島にある悪石島と小宝島の境界までは旧北区と呼ばれる範囲であり、この地域にはアジア北東部に由来する種が分布し、それ以南は東洋区と呼ばれる範囲内で、中国南東部から台湾、東南アジアと共通する種が見られ、それぞれ起源の異なる動物相を形成する。
 二つの生物地理区を含むことと、大陸との関わりは日本列島の生物の種数を増やす一因であるが、大陸と地続きになった歴史を持つ地域は固有種の割合が少ない傾向にあり、大陸棚上に位置する北海道から南西諸島までの島々は地理的には大陸島と呼ばれる。一方小笠原諸島のように火山活動によって生成し、大陸からの距離が遠く、一度も地続きになることのなかった島は海洋島と呼ばれる。海洋島の生物相は漂着や飛来などの手段によって定着できたもののみによって構成されるため、種数が少なく、量的質的な原因から捕食性動物を欠く点が挙げられるが、結果的に厳しい競争に晒されることなく、長期に渡って外部の環境と隔離されるため、固有化された種が多いという特徴を持つ。
 しかしながら、大陸島に属する島でも成立の歴史が古い場合は海洋島的な性質を持つことがある。奄美大島と徳之島にのみ分布するウサギ亜科のアマミノクロウサギなどは、その形態に中生代に栄えた種に繋がる原始性を示しており、より進化した種との競争を免れて生き残った残存種の一例といえる。
 こうした隔離による固有化の例は離島に限らず、本州においても少なくない。国土の70%以上が平地よりも高い丘陵や山地で占められ、陸地は起伏に富んでいる。加えて日本は多雨地域であり、東西に狭い地形は海までの流程の短い急流河川を多く形成し、生息地を分断するため、魚類、両生類、昆虫などの小型の水生生物では地域的な固有種が多い。
 概観すると日本列島の動物相の多様さは、大陸との歴史的な関わりと、地理的な隔離による固有化によって種数が多いことと、それらを支える幅広い気候条件によるものであることがわかる。

参考文献
  • 大森晶衛、柴崎達雄、小森長生編 「グラフィックス・日本の自然」平凡社 1988年
  • 佐藤正孝編 「新版 種の生物学」平凡社 1994年
  • 池谷和信編 「日本列島の野生生物と人」世界思想社 2010年
  • 浅井建爾 「地理と気候の日本地図」PHPサイエンス・ワールド新書 2011年