脊索動物門 chordata
概要
脊索動物(せきさくどうぶつ)は多細胞で左右相称な体制を持つ動物群の内、頭索類、尾索類、脊椎動物を包括するグループで73000種以上が記載され、下位分類の3亜門から成る。
- 頭索動物亜門(とうさくどうぶつあもん)
- 脳や目、脊椎骨はなく脊索が全長に渡る。ナメクジウオ類を代表するグループで全世界の温暖な浅い海の砂底に生息する。現生約30種。
- 尾索動物亜門(びさくどうぶつあもん)
- ホヤ綱、オタマボヤ綱、タリア綱を含み、体全体が被嚢と呼ばれる軟質または硬質の組織に包まれ、他の脊索動物とは大きく異なる形状を持つ。終生または幼生期に尾部のみに脊索を持ち、変態し海底に固着する種ではこれを失う。現生約2400種以上。
- 脊椎動物亜門(せきついどうぶつあもん)
- 魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類などを包括し、脊索の周囲に軟骨性または骨性の中軸骨格が形成され、中枢神経は前方が膨大し、脳を形成する。陸海空で繁栄し、現生およそ45000種。
これらは終生もしくは発生から成長の一時期において以下の形質を共有する。
脊索(せきさく)
体の正中背側に通る弾力性のある棒状の支持構造で、頭索動物は終生体の全長に渡って形成され、尾索動物は終生または幼生の一時期尾部だけに形成され、脊椎動物は発生の過程で脊索の周囲に脊椎骨が形成され、多くはこれに置き換わる。
神経管(しんけいかん)
脊索の背側に沿って位置する管状の器官で、内部は脳脊髄液に満たされ、中枢神経系を形成する。
脊椎動物は先端部が分化・肥大し眼、脳の各部位を形成する。これに対し頭索類は頭部まで神経管があっても脳を形成せず、尾索類は幼生期に痕跡が認められるものの変態に伴い消失する。
鰓裂(さいれつ)
咽頭の側壁に生じた孔(あな)状の鰓(えら)で、口から取り入れた水を排出するとともに、通路の表面にある鰓膜を通じて呼吸を行う器官。形態や列数は動物群によって大きく異なり、頭索類では咽頭の側面にスリット状の孔が前後に並び最高60対に及ぶ。尾索類は小孔状の非常に多くの孔が縦横に規則正しく並ぶ。
脊椎動物の内、肺呼吸を行う爬虫類、鳥類、哺乳類などの羊膜類と呼ばれるグループでは胚の一時期に鰓嚢が形成される。
内柱 / 甲状腺(ないちゅう / こうじょうせん)
内柱は頭索動物や尾索動物の咽頭の腹側にある繊毛を持つ溝状の組織で、分泌した粘液で鰓裂から流入した食物粒子を濾過摂食する。脊椎動物では消化管の腹側に持つ甲状腺が内柱と相同の器官とされる。
脊索動物門に含まれる掲載中の分類群
脊索動物門に含まれる種
現在52種掲載
古代の脊索動物
脊索動物の起源について明らかではないが、現生の多くの動物門が出揃ったカンブリア紀、5億3000万年前〜5億800万年前の地層の化石に痕跡が見られる。
カナダのブリティッシュコロンビア州バージェス頁岩の地層(バージェス動物群 カンブリア紀中期)から発見されたピカイア Pkaia grasilens が広く知られていたが、1980年代になって中国雲南省の澄江(チェンジャン)動物群からより古い時代の(カンブリア紀前期)ユンナノゾーン Unnanozoon、ミロクンミンギア Myllokunmingia、ハイコウイクチス Haikouichthys などが次々と発見された。
これらの動物の詳細な分類・位置付けについては不明な点が多く、解析が続けられている。
脊索動物の再分類
脊索動物門は現在30余の動物門の1つを成し、脊索、神経管、鰓裂という共有形質の堅牢性から1世紀以上に渡り維持されてきたが、2014年の沖縄科学技術大学院大学と東邦大学の共同研究では脊索動物門を上門、頭索動物亜門、尾索動物亜門、脊椎動物亜門をそれぞれ門に昇格させる事が提案されている。
近年の分子系統学的解析で、後口動物の中の棘皮動物と半索動物が「水腔動物」と呼ばれるグループを成し、脊索動物と姉妹群を成す事が確実になった。前口動物では節足動物を代表する8つの動物門が「脱皮動物」、軟体動物や環形動物を含む7つの動物門が「冠輪動物」として包括される。これらには現在分類階級がないが、上記研究においてはそれぞれを上門として、前口動物、後口動物をそれぞれ下界に位置付ける事を適切とした。
そして現在の分類体系では各動物門を強く特徴付ける要素が乏しい場合も少なくないが、頭索動物は脊索と筋肉の形成に関する特性、尾索動物は成体の体全体を覆う皮膜の主成分であるセルロースを直接合成できる機能、脊椎動物は中枢神経としての脳、内骨格、高度な免疫機能、ゲノム構成等、極めて独自の特徴を持つことから、それぞれを動物門として扱う事が最適と結論づけた。
本サイトにおいては現状、伝統的な分類体系に従っている。
参考文献
- 岩槻邦夫・馬渡俊介 監修 『脊椎動物の多様性と系統』 裳華房 2006年9月25日
- 藤田敏彦 著 『新・生命科学シリーズ 動物の系統分類と進化』 裳華房 2010年4月25日
- 巌佐庸、倉谷滋、斎藤成也、塚谷雄一 編 『岩波生物学辞典 第5班』 岩波書店 2013年
- Noriyuki Satoh, Daniel Rokhsar and Teruaki Nishikawa (07 November 2014) "Chordate evolution and the three-phylum system", THE ROYAL SOCIETY
- 脊椎動物門、新たな創設 沖縄科学技術大学院大学
- 公益社団法人日本動物学会 編 『動物学の百科事典』丸善出版 2018年9月28日
- Mark A. S. McMenamin (August 2019) "Cambrian Chordates and Vetulicolians", MDPI
- 末光隆志 編 『動物の事典』 朝倉書店 2020年11月1日
- Catalogue of Life