生物図鑑

オオサンショウウオ

  • オオサンショウウオ
    撮影:和歌山県東牟婁郡 2023年10月30日
    古座川で観察されている個体
  • オオサンショウウオ
    撮影:和歌山県東牟婁郡 2023年10月30日
  • オオサンショウウオ
    撮影:和歌山県東牟婁郡 2023年10月30日
  • オオサンショウウオ
    撮影:和歌山県東牟婁郡 2023年10月30日
  • オオサンショウウオ
    撮影:和歌山県東牟婁郡 2023年10月30日
  • オオサンショウウオ
    撮影:和歌山県東牟婁郡 2023年10月30日
  • オオサンショウウオ1
    和歌山県東牟婁郡 2023年10月30日
    古座川で観察されている個体
  • オオサンショウウオ2
    和歌山県東牟婁郡 2023年10月30日
  • オオサンショウウオ3
    和歌山県東牟婁郡 2023年10月30日
  • オオサンショウウオ4
    和歌山県東牟婁郡 2023年10月30日
  • オオサンショウウオ5
    和歌山県東牟婁郡 2023年10月30日
  • オオサンショウウオ6
    和歌山県東牟婁郡 2023年10月30日
基礎情報
学名Andrias japonicus
英名 / 漢字Giant salamander / 大山椒魚
大きさ50〜150cm
分布・時期岐阜県以西の本州、四国、九州の一部に分布
生息環境山間部の河川上流から中流域までの水質の安定した環境
食物水生昆虫や小型の無脊椎動物を、サワガニ、淡水魚、両生類鳥類や爬虫類、哺乳類に至るまでを幅広く捕食
別名 / 地方名ハンザキ

特徴・形態

世界最大の両生類の一種であり、全長は50〜150cmに達することがある。体の背面は茶褐色で、黒い斑紋が不規則に広がっているが、個体によって模様のバリエーションは多様で、一様に黒く見えるものもいる。頭部は大きく扁平で、鼻孔は小さく、吻端に位置する。目は非常に小さく、頭部背面の外側に位置しており、視力はあまり発達していない。皮膚には多数の疣(いぼ)があり、体側には厚いひだが存在する。

四肢は短く、前肢には4本、後肢には5本の指を持つ。指の先端には小さな肉球状の吸盤があり、川底をつかむ際に役立つ。尾は短く、オール状に側偏しており、全長の約3分の1を占める。水中での移動は主に尾を使って行い、四肢はあまり用いられない。背面には多くの疣があり、体側の疣は側線として水流や水圧を感知するセンサーとして機能する。

繁殖期の雄は、総排出口の周囲がドーナツ状に隆起するが、栄養状態によっては目立たないこともある。雌は膨らんだ腹部から判別できることがあるが、肥満個体との区別が難しい場合もある。

分布・観察時期・生息環境

オオサンショウウオは日本固有種であり、岐阜県以西の本州、四国、九州の一部に分布している。主要な生息地は中国地方に集中しており、広島県、島根県、岡山県、鳥取県、兵庫県などに広く見られる。また、岐阜県郡上や三重県名張、和歌山県東牟婁郡、大分県宇佐などにも生息している。人工的に移入された個体が見つかる地域もあり、特に四国や和歌山県などでは、生息地の検証が進められている。

オオサンショウウオは主に山間部の河川に生息しており、川の上流から中流域まで見られる。河川の幅や水深、流速に関わらず適応しているが、水温や水質が安定した環境を好む。川岸に掘られた横穴や大きな岩の下を巣にし、一生の大半を水中で過ごす。観察されるのは主に夜間であり、隠れ家から出てきて餌を探すため、昼間にはあまり見つからない。

繁殖期は8月下旬から9月上旬にかけて行われ、繁殖のために川を遡行することもあるが、個体によってはあまり移動しない場合もある。河川工事や護岸による生息環境の破壊が個体群の減少に繋がっており、特に交雑個体の増加が問題視されている。

生態

夜行性で、日中は川岸の横穴や大きな岩の下などに隠れて過ごすが、夜になると隠れ家から出てきて餌を探す。動きは体の大きさに反して非常に素早く、幼生期には水生昆虫や小型の無脊椎動物を主に捕食し、成長するとサワガニ、淡水魚、両生類を主な餌とする。鳥類や爬虫類、さらには哺乳類を捕食する例もある。基本的に口元に来る動物なら何でも食べる性質があり、共食いの記録もあり、43cmの個体が86cmの個体に捕食された事例も存在する。

産卵は8月下旬から9月にかけて行われる。オスは繁殖期に縄張りを形成し、河岸にある横穴を繁殖巣として占拠し、雌を待つ。雌が巣穴に入ると、オス同士での闘争が行われ、優勢なオスが繁殖行動に参加する。卵は寒天質のひも状に連なり、約300〜700個が一度に産まれる。オスは産卵後も巣穴に留まり、孵化するまでの間、卵や幼生を保護する。

人との関わり

オオサンショウウオは、日本では特別天然記念物に指定されており、その存在は文化的にも重要な位置を占めている。古くから「ハンザキ」とも呼ばれ、伝統的な祭りや神話、文学などに登場する。岡山県真庭市の湯原温泉では「はんざき祭り」が毎年8月に開催され、オオサンショウウオを象った巨大な山車が登場するなど、地域文化に深く根付いている。この「はんざき」という呼び名は、体を半分に裂かれても生きているという古い伝説に由来しており、オオサンショウウオの生命力を象徴している。また、オオサンショウウオは古典文学や絵画にも登場し、日本人に古くから親しまれてきた。

一方、オオサンショウウオは絶滅の危機に瀕しており、国際的な取引はワシントン条約の附属書Iにより厳しく規制されている。また、環境省のレッドリストでは絶滅危惧種に指定されており、保護活動が各地で行われている。近年では、中国原産のチュウゴクオオサンショウウオとの交雑個体が西日本で確認されており、純粋なオオサンショウウオの生息地を守るため、緊急な対応が求められている。

保全活動と現状

保全活動としては、地域住民や学校、行政が協力して行う生息地の保全プロジェクトが各地で進められている。水族館や動物園でも、繁殖計画が実施されており、人工的な繁殖による個体数の維持が図られている。特にチュウゴクオオサンショウウオとの交雑問題は、純粋なオオサンショウウオの遺伝的保全を脅かす深刻な問題であり、西日本を中心に対策が急がれている。

一方で、かつては食用や薬用として利用されていた歴史もあり、一部の地域では赤痢の治療や食物として使われていたことが記録されている。しかし、現在ではオオサンショウウオを捕獲することは法律で禁止されており、違法な取引や捕獲は厳しく罰せられる。

研究と発見の歴史

オオサンショウウオの研究は、江戸時代のシーボルトによる最初の標本収集から始まった。シーボルトが日本から持ち帰ったオオサンショウウオの標本は、ヨーロッパにおける日本の動物学研究の出発点となり、後の動物学的調査の基礎を築いた。その後、日本国内でも明治時代に動物学者たちによって多くの解剖学的・生理学的研究が行われ、オオサンショウウオの生態や繁殖についての理解が深まった。

近年では、遺伝学的な研究が進められており、特に中国産のチュウゴクオオサンショウウオとの交雑問題がクローズアップされている。1970年代以降、食用として輸入されたチュウゴクオオサンショウウオが日本国内に放たれたことで、交雑個体が自然界で増加し、純粋な日本産オオサンショウウオの遺伝的多様性が脅かされている。この問題は、特に西日本の地域で深刻化しており、専門家によるDNA鑑定や交雑個体の除去作業が進められている。

参考文献

  • 内山りゅう 前田憲男 沼田研児 関慎太郎 『決定版 日本の両生爬虫類』 平凡社 2007年2月1日 初版第5刷
  • 松橋利光  奥山風太郎 『山渓ハンディ図鑑9 増補改定 日本のカエル』 山と渓谷社 2015年6月25日
  • 関慎太郎 松井正文 『野外観察のための日本産両生類図鑑 第3版』 緑書房 2021年1月25日
  • 公益財団法人広島市みどり生きもの協会 編 『広島市安佐動物公園50周年記念 オオサンショウウウオを知る 守る そして共に』 2021年9月1日
  • 日本爬虫両生類学会 編 『新 日本両生爬虫類図鑑』 サンライズ出版 2022年1月20日 電子版第2版

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